大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(ワ)1632号 判決 1968年3月23日

原告

佐藤きみ

被告

有限会社弘洋印刷

ほか二名

主文

被告らは原告に対し各自金一〇七万九三一八円およびこれに対し被告有限会社弘洋印刷、同小宮佐門については昭和四二年三月一日から被告小宮啓三については同月三日から右完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分して、その一を原告が、その余を被告らの負担とする。

第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、双方の申立

一、原告

被告らは各自原告に対し金三一〇万円および内金二三〇万円に対し被告有限会社弘洋印刷、同小宮佐門については昭和四一年三月一日から、被告小宮啓三については同月三日から右完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

二、被告ら

本件請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、双方の主張

一、原告の請求原因

(一)  (本件事故の発生)

被告小宮啓三は、昭和四一年三月一二日午後七時一〇分頃普通乗用車を運転し東京都台東区松が谷二丁目七番七号先道路を入谷方面から浅草方面に向い進行中、前方横断歩道上を右から左に向け横断中の原告に衝突し、原告に対し腰部打撲、骨盤骨折、右肩脱臼、右手損傷、左足骨折、頭部顔面打撲、前歯損傷などの傷害を負わせた。

(二)  (被告小宮啓三の責任)

被告啓三は、本件事故当時加害自動車を所有し、よつて、これを自己のため運行の用に供していたものである。

(三)  (被告会社の責任)

被告啓三は、被告会社の代表取締役であり、常時加害自動車を被告会社の営業のため使用し、本件事故当時も被告会社の営業に使用中であつて被告会社の支配下にあり、よつて被告会社は加害自動車を自己のため運行の用に供していたものである。

(四)  (被告小宮佐門の責任)

被告佐門は、被告啓三の父であり事実上被告会社の経営者として(被告会社は実質上被告佐門の個人営業である)右啓三を指揮監督する立場にあるかたわら被告会社内で被告会社と同一の営業をなしていたが、本件事故当時右啓三および被告会社の関係から本件加害自動車を支配しており、よつて、これを自己のため運行の用に供していたものである。

(五)  (損害)

(1) 慰藉料 金二〇〇万円

(2) 医療費 金五〇万円

内訳 (イ) マツサージ費 金六万六八〇〇円

(ロ) 歯手術費 金五三二〇円

(ハ) ハリ、灸費 金一万一二〇〇円

(ニ) 売薬便器等 金一五七〇円

(ホ) 栄養補給費(牛乳代) 金一〇五六円

(ヘ) 薪炭代 金五七〇円

(ト) クリーニング代 金三〇〇円

(チ) 温泉治療費(延一〇〇回) 金四五万円

(3) その他の出費 金三〇万円

内訳 (イ) 人件費 金二四万円

原告は本件事故による受傷のため主婦としての家事労働に従事できず、家政婦を雇つたがその給料として一ケ月金二万円の支払を要するに至り、右金額はその一年分の支払合計額である。

(ロ) 車代 金四万八〇〇〇円

原告が病院、マツサージ師宅、ハリ灸院へ通院するために乗つた車代と原告入院中に原告の家族が病院まで乗つた車代合計額である。

(ハ) 温泉治療交通費 金二万円

原告の温泉地までの国鉄二等運賃往復金二〇〇〇円の延一〇回分である。

(4) 弁護士費用 金三〇万円

(六)  よつて、被告らは自動車損害賠償保障法第三条に基づき原告に対し各自前記合計金三一〇万円の損害賠償金および内金二三〇万円に対する本件訴状送達の翌日である被告会社と被告佐門については昭和四二年三月一日から被告啓三については同月三日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

二、被告らの請求原因に対する答弁

(一)  (被告啓三の答弁)

請求原因(一)の事実中原告受傷の程度を除きその余は認める。

同(二)の事実は認める。

同(五)の事実は不知

(二)  (被告会社の答弁)

請求原因(一)および(五)の事実は不知

同(三)の事実は認める。

(三)  (被告佐門の答弁)

請求原因(一)および(五)の事実は不知

同(四)の事実中被告佐門が被告啓三の父であることは認めるが、その余は否認する。

第三、証拠〔略〕

理由

一、〔証拠略〕によると請求原因(一)の事実(但し原告受傷の部位および程度は、頭部外傷、顔面打撲、右肩関節脱臼骨折、骨盤骨折、肪胱挫傷、右膝打撲傷、左腓骨折である。)を認めることができる(但し原告と被告啓三との間においては原告の受傷の部位程度を除いたその余の事実については当事者間に争いがない。)。

請求原因(二)の事実は原告と被告啓三の間において争いなくまた請求原因(三)の事実は被告会社との間において争いがない。

右事実によると、被告啓三および被告会社は加害自動車の運行供用者というべきであるから、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償すべき義務がある。

二、被告佐門が加害自動車の運行供用者であるか否かについては争いがあるので以下検討する。

〔証拠略〕によると、被告佐門は、約四〇年来個人で印刷ブローカー(業務内容は得意先から印刷物の注文を受けてこれを印刷所にて印刷させ注文者に納品してその間に利益を得るものである)をしていたが、これを会社組織にすることによつて税金関係を有利に処理するため被告会社を設立し、自己が年老いたせいもあつて右会社の代表取締役には息子の被告啓三をすえ(親子の身分関係は当事者に争いがない)同人をして印刷の注文を受けるためのいわゆる得意先廻りをさせていたこと、被告啓三は、被告会社の業務用として被告佐門の承諾のもとにブルーバードを購入し従来得意先廻りに使用していたが、事故当時は被告佐門に無断で外車である加害自動車に買替えて使用していたことを認めることができる。

右事実によると加害自動車は被告佐門の支配下にあり、被告佐門は、加害自動車の運行供用者というべきであるから本件事故によつて生じた原告の損害を賠償すべき義務がある。

三、次に原告の蒙つた損害につき検討する。

(一)  次の一覧表掲記の各証拠によると、同表記載のとおり原告は医療費として金七万九三一八円の支出をなしたことを認めることができるがその余の医療費を支出したと認めるに足りる証拠はない。

<省略>

(二)  原告主張のその他の出費金三〇万円についてはこれを認めるに足りる証拠はない。

(三)  〔証拠略〕によると、原告は本件事故により一項記載の傷害を蒙り、蛯名外科医院に約七〇日間入院し、退院後もマツサージ等により治療に専念したが頸椎変形性脊椎症、変形性膝関節症が後遺症となり右上肢に治癒の可能性のない神経痛が生じ、その苦痛を避けるため温泉治療を要し、その治療費だけでも多額の出費を強いられる結果となつたことを認めることができ、しかも〔証拠略〕により認めうる本件事故の態様および被告啓三の過失の程度など諸般の事情を考慮するとき原告の慰藉料としては金九〇万円が相当である。

(四)  前項事実によると原告は被告に対し合計金九七万九三一八円の損害賠償請求権を有するところ、弁論の全趣旨によると被告は原告に対し損害賠償金の支払をなさないため本訴提起を弁護士に委任し弁護料金三〇万円の支払を約したことを認めうるが、本件事故における損害として認めうる弁護費用は前記金九七万九三一八円のほぼ一割にあたる金一〇万円が相当である。

四、したがつて、原告は自動車損害賠償保障法第三条に基き、被告らに対し各自金一〇七万九三一八円およびこれに対する被告らに本訴状送達の翌日であることが記録上明らかな被告会社および被告佐門については昭和四三年三月一日から被告啓三については同月三日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め得る。

よつて、原告の本訴請求は、右限度で理由があるからこれを認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言については同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山口和男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例